ウーロンチャーぺー
小学生の時、色んなものを中国語で何と言うのか聞くと、教えてくれる変な先生がいた。
先生は人気者で、いつも生徒に囲まれながら、あれはニーハオって言うんだとか、これはシェイシェイって言うんだとか、君は北川ならペーシェンだな等々、色々みんなに教えていた。
ある日、いつものように先生はみんなに囲まれていた。
僕もみんなと一緒に、その輪の中にいた。
寿司は何て言うんだ、うんこは何て言うんだ、様々な質問が飛び交う。
と、僕は聞いた。
「先生、ウーロン茶は何て言うの?」
「ウーロンチャーぺー」
即答だった。
生徒達が騒ぐ。
そうなんだ、ウーロン茶はウーロンチャーぺーって言うんだ、俺今度からそう言おう。
えーウーロン茶ってウーロンチャーぺーって言うんだ、なんかおもしろいね。
盛り上がる生徒達。
「嘘つき」
喧騒の中、僕は先生に話し出した。
「嘘つき。ウーロン茶がウーロンチャーぺーなわけないじゃん。加藤茶がカトちゃんぺーだからってウーロン茶がウーロンチャーぺーなんておかしいよ」
生徒達は静まり返った。
羨望の眼差しから一転、疑惑の目が先生に向けられ始めた。
先生はと言えば、じっと僕を見つめている。
そして先生は、にこりと笑い、話し出した。
「きたが…いや、ペーシェン君。…そうだ、先生は嘘をついたんだ。でも、カトチャンぺーがウーロンチャーぺーになったんだ。カトチャンぺー、ウーロンチャーぺー、どうだい、おかしくないかい?」
生徒は誰一人、首を縦に振らない。
なおも沈黙は続く。
先生は大きくうなずき、言葉を続けた。
「ウーロンチャーぺー…カトチャンぺー、ウーロンチャーぺー、カトチャンぺー。…ウーロン、だっふんだ!そうです、わたすが変なおじさんです!」
途端に生徒達は弾けたように笑い出した。
僕も笑った。
チャイムが鳴っている。
先生は僕らに、正しい中国語は一つも教えてくれなかった。
しかし、真のエンターテイナーとはこんな人間なのだと、身を削りながら日々教えてくれていたのだ。
Posted by 北川 on 8月 9th, 2009 :: Filed under 未分類
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